ラノベ 江戸時代に転生してみた。

江戸時代に転生してみた。2


第二話:女神のオリエンテーション

1.女神降臨


どうしても納得できないことがある。

「なんで転生したのに異世界じゃなくて江戸時代なんだよ!!!」

普通なら、ここで誰かがツッコんでくるはずだが、誰も反応しない。
なぜなら、転生者たちはそれぞれの世界観を持ちすぎていて、すでにカオスだからだ。

そんなとき。

──パァァァァ……。

突然、長屋の天井から光が差し込み、あの女神が降臨した。

「皆さん、お元気でしたか?」

「お前かああああ!!!」

俺は全力で叫んだ。

「話が違うぞ!! 異世界転生って言ったのに、なんで江戸時代なんだ!!」

「私、異世界だなんて言ってませんよ?」

「は?」

「私は『あなたに最高の来世をプレゼントします』とは言いましたが、『異世界に転生させます』とは一言も……。」

「おおおおお前えええええ!!!!!」

俺は床を転がりながら絶叫した。

「普通、『最高の来世』って言ったらファンタジー世界とかじゃねえのかよ!?」

「そう思われたのなら、ちょっと説明不足でしたね。すみません。」

女神は全く悪びれた様子もなく微笑んでいる。

「まあまあ、転生者オリエンテーションを始めましょう。」

「お前のせいで混乱してるのに、しれっと進めるな!!」

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2.女神のオリエンテーション


女神はふわりと宙に浮きながら、俺たちに向かって話し始めた。

「まず、皆さんがなぜこの江戸時代に転生したのかを説明しますね。」

「ようやく説明か……。」

女神は手を胸に当てて、とても申し訳なさそうにうつむきながら説明を始める。

「私の仕事は、本来あるべき歴史の流れになるように観察することなのです。」

「へえ、ちゃんと仕事してるんだな。」

「でも、ちょっと眠くて……。うっ……。」

「え?」

「気付いたら、歴史の流れがちょっとおかしくなってて……。ぐすっ….。」

「ちょっと!?」

「それで、慌てて調べたら、どうやら本来の歴史と違う方向に進んでいることが分かったのですぅぅ。」

「泣きたいのはこっちだよ!!」

女神は顔を上げて続ける。

「でも、もう変わっちゃったものは仕方ないので、みなさんにそれを戻してもらおうと思って呼びました!」

「軽い!清々しいまでに!!」

「だって、歴史の修正って大変なんですよ? 私が全部やるのは無理なので、皆さんにお手伝いしてもらいますね。」

「いや、そこは神様が頑張れよ!!」

「無理です私仕事嫌いなので。」

「開き直った!?」

女神は軽く咳ばらいをしつつ話を続ける。

「それと念のため、皆さんがなぜ選ばれたか説明しますね。」

勇者が自信満々で手を挙げる。


「私は勇者だから、世界を救うために選ばれたのだな!」

「そうです! 強力な魔法で歴史をなんとか!みたいな感じです!」

「私はこの世界では魔法が使えないようなんだが……。」

「え?そうなんですか?うーん、ミスっちゃいました!」

女神は、きらっきらの笑顔で片眼を閉じて舌を出す。

こいつすげえ適当だ!

次に、高性能AI搭載タヌキ型ロボットが機械音声で問う。
「質問:私がこの時代に来た理由。」

女神は少し考えながら答える。
「えーっと……なんかロボって良くないですか?ロマン?みたいな!」

いやおもしれえけど!!

「ピー、情報を理解できません。言語処理に異常が発生しました。ピー、深刻なエラーが発生しています。ピー……。」

タヌキバグっちゃったよ!?わけわかんねえこと言うから!!

次に、悪役令嬢が優雅に扇を広げる。
「わたくしは当然、高貴なる身分ゆえに?」

「いえ、単に面白そうだったので!」

「おおおお面白そう!?ここここのわたくしが!?こここんな扱い生まれて初めてですわ!!」

これは切れていい!完全に同意!

そして最後に俺が尋ねる。
「じゃあ、俺は?」

「うーん……普通属性ですし呼ぶつもりなかったんですけど、タイミング?ついでに送っちゃえ!みたいな感じです!」

「俺だけ理由すらねえじゃねえか!!!」

女神はすっとぼけた笑顔を浮かべながら、俺たちを見渡す。

「とはいえ、皆さんがこの江戸時代でスムーズに過ごせるように、サポートをしています。」


3.言語の壁、解決済み


「まず、転生に際して皆さんには言語学習パックをプレゼントしておきました。」

「は?」

「なので、異世界の勇者さんも、悪役令嬢さんも、みんな日本語を理解できるようになっています。」

「つまり、勝手に翻訳されてるのか?」

「はい、その通りです。」

だからどう見ても異世界人な奴らと会話が成立してたのか。

悪役令嬢が眉をひそめる。
「……ちなみに、書くこともできるのかしら?」

「はい! 読むのも書くのもOKです!」

「そんなことが可能なのかしら?」

「ええ、転生特典ですから!」

「便利すぎませんこと?」

「便利じゃないと困るでしょう? せっかく転生したのに、言葉が通じなかったら詰みますし。」

めちゃくちゃまともな理由だったが。

「……ちょっと待て。」

俺は手を挙げる。

「俺は最初から日本語わかるんだけど。なんか特典ないの?」

「ありませんよ。」

「なんでだよ!!」

「強欲ですか?」

「いや、俺だけ何もないの不公平じゃね?」

「では、困ったときに『女神コール』できる権利をあげますね♪何かあったら私が手助けします!」

「おお、便利じゃん!」

「便利です!」

「じゃあ今試してみてもいい?」

「ダメです。」

「は?」

「今は困ってないでしょう?」

「いや、最初からずっと困ってるんだけど!」

「ピンチの時に使うものです。無駄遣いは禁止です!」

「うーん……まあ、意外と役に立つのかもしれない、のか??」

「それでは、皆さん! がんばってくださいね!」

「ちょ、待て待て!! 具体的な説明が何も──」

「ピー、言語処理プログラムを再構成….失敗しました。ピー」

「せめてタヌキに言語学習パック再インストールしてやって!!」

──パァァァァ……。

再び光に包まれ、女神はあっさりと消えた。

「正しい歴史に戻すって、どうすりゃいいんだよ!」

俺の叫びが虚しく響く。

こうして、具体的な説明もないまま、俺たちは江戸時代で生き抜くことを強いられることになったのだった……。




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