ラノベ 無限の5分

『無限の5分』~寝起きの「あと5分」は本当に5分で済むのか?~1

『無限の5分』1

1. 目覚め

けたたましい電子音が静かな部屋に響き渡る。サカキは目を覚まし、枕元の目覚まし時計に手を伸ばした。

【6:00】

「……あと5分……」

スヌーズボタンを押し、再び布団に潜る。それを何度か繰り返し、次に目を覚ましたのは【6:20】。

「……さすがにまずい。」

サカキは重い体を引きずりながら、ようやく布団から這い出た。制服に着替え、洗面所へ向かう。鏡に映る寝癖を片手で直し、冷たい水で顔を洗う。

キッチンでは、母親が朝食を作り、父親は新聞を広げている。何気ない、いつもと変わらない朝。

「おはよう」

「おはよう。ほら、さっさと食べなさい」

母親がテーブルに置いたパンと目玉焼きを適当に口に運びながら、スマホでニュースをチェックする。時計の針は【7:00】を指していた。

「行ってきます」

カバンを肩にかけ、玄関のドアを開ける。冷たい朝の空気が肌を刺す。今日もいつも通りの一日が始まる――はずだった。

2. 繰り返される5分

家を出て電車に乗り、学校の最寄り駅――白狩川駅に到着する。改札を抜け、駅の出口へ向かう。駅を出て時計を見ると、【7:40】。

5分ほど歩き、ふとポケットからスマホを取り出そうとすると、誤ってハンカチを落としてしまった。

「……っと」

ハンカチを拾い顔を上げる――その瞬間、視界の端で"青白い光"が揺らめいた。淡く、儚い光。それは、人の形をしていた。

長い髪をなびかせる、女性のようなシルエット。

「……これは...?」

直後、耳鳴りが鳴り響く。視界が揺れ、全身がふわりと浮くような感覚に襲われる。

「――試練を開始する。」

次の瞬間、意識が途切れた。

気がつくと――7:40。白狩川駅前に立っていた。

「……え?」

目の前の風景は、見たばかりの光景。駅の出口。すれ違う学生たち。遠くから聞こえる電車の発車ベル。

――5分前に戻っている。

3. 苦心

「なんだよこれ……。」

状況が理解できないまま、もう一度歩き出し、学校へ向かおうとする。だが、7:45になった瞬間――耳鳴りとともに視界が歪む。そして、再び7:40。駅前に戻っていた。

「……嘘だろ?」

何が起きているのか分からない。だが、一つだけ確かなことがある。――5分前に戻っている。

試しに、行動を変えてみる。駅の中に戻る → 7:45になると、駅前に戻る。別の道を通る → 7:45になると、駅前に戻る。周囲の人に話しかける → そもそも誰も異常に気付いていない。

「……ダメだ、何をしても戻る。」

頭を抱えたくなる。まるで、見えない何かに支配されているような感覚を覚えた。

4. 試行錯誤

サカキは、行動を変え続けることにした。理由などない。他にできる事がないからだ。ひたすら試し続ける。

・走る速さを変える ・通るルートを工夫する ・道行く人々に挨拶をする ・7:45直前にジャンプしてみる ・バスに乗ってみる

何度も何度も、行動を変えながら、5分間を繰り返した。そしてある時、違和感に気付く。すれ違う人の位置が微妙に変わる。風の吹く向きが違う。見かけた野良猫の動きが少しだけ違う。

「……これか?」

何かが、"ほんのわずかに"変わっている。少しずつ、ループが変化し始めている。そして、100回目の7:45が訪れる。

5. 終焉

耳鳴りは――来なかった。

「……終わった、のか?」

サカキは立ち尽くす。その時再び、サカキの前に青白い光が現れた。今度ははっきりと"女性"の姿を成していた。サカキは問う。

「……お前は、なんなんだ?」

「知る必要はない。」

サカキの問いかけに、青白い光は答えず、消えていく。

「……知る必要はないって、なんなんだよ.....。」

7:46へと時間が進む。

サカキ:「……終わった、のか?」

耳鳴りも、視界の歪みも、もうない。

6. もう一人

それから一週間。サカキは普段通り通学し、昇降口で靴を履き替える。背後で誰かが小さくつぶやく。

「……また、戻ってる....。」

セミロングの髪を揺らしながら、腕時計を睨む少女。その声は、周囲の話し声にかき消され、サカキの耳には届かなかった。



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